昼下がり、私は行水にも飽きた。
ぼんやり天花粉の匂いの中、ダレカ来ないかと門のあたりを眺めている。すると陽炎の中、イヌが一匹庭に迷い込んで来た。
「お前は何処のイヌだ」と声をかけると、
「ワタシはイヌではない。女だ」とイヌが言う。
「イヌがイヌでなくて、女というのか」
私は笑いながらイヌの首鎖を掴み意地悪く締め上げた。
「じゃあ女の証拠を見せてごらん」
するとイヌは毛衣を腹から裂いて小さな割れ目を露にした。
「こんなもんイヌでも付いてるよ」
言うなり私は割れ目に指を突っ込んで、穴の中を掻き混ぜた。
イヌ は「ぎゃん」と言うなり私の肩口に噛み付いて来た。
驚いてイヌを突き飛ばしたが、私の意識は朧となった。
気が付くと、ワタシは四つ這いなって家の外、路地裏にいた。日傘を差した女が向こうからやって来る。
影が濃くて顔が見えない。
「おや、こんな所にイヌが・・」
母の声に似ている気もした。
ワタシは「ワタシは犬ではない」と言うと、
「こんな処にいやらしい鎖を付けてさ。それで女のつもりかい」
ワタシの陰唇に穴が開けられ鎖が通されていた。
咄嗟に逃げようとしたが、女に鎖を掴まれると陰唇に引き裂かれそうな痛みが走った。
そのまま女に鎖を引っ張られ後ろ向きに四足のまま、足をもつれさせながらついて行く。
トコトコと後ろ歩きする様はまるで芸をするイヌのようだった。
さっきのイヌが家の門から、顔を出しこちらを盗み見している。ワタシはイヌに言った。
「グッバイ、イヌ。ワタシはワタシの道を連れられて行く。何処へ行くのか知らないけれど。
またいつか、何処かの庭で逢えたらいいね」
ワタシ達は哀しげな目で互いを見送ったが、それも陽炎でぼやけてしまった。