これを撮影したのは2004年の1月の末頃だ。ちょうどその一週間前に秋田の乳頭温泉に行く計画を立てていてたが、
20年振りに罹ったインフルエンザのお陰でこの旅行は泡と消えた。

東京から来られたモデルさんを迎え、微熱気味の頭と体で二作品を撮り下ろした。
このモデルさんとはその半年前の銀座での個展の際に一度お会いしていて、既にイメージは纏まっていて
スムースに撮影は終了した。
作品では 久しぶりに二人のモデルさんを絡めて撮った。

下は雑誌掲載時の文章。



イヌと私と夏の庭で

昼下がり、私は行水にも飽きた。
ぼんやり天花粉の匂いの中、ダレカ来ないかと門のあたりを眺めている。すると陽炎の中、イヌが一匹庭に迷い込んで来た。
「お前は何処のイヌだ」と声をかけると、
「ワタシはイヌではない。女だ」とイヌが言う。
「イヌがイヌでなくて、女というのか」
私は笑いながらイヌの首鎖を掴み意地悪く締め上げた。
「じゃあ女の証拠を見せてごらん」
するとイヌは毛衣を腹から裂いて小さな割れ目を露にした。
「こんなもんイヌでも付いてるよ」
言うなり私は割れ目に指を突っ込んで、穴の中を掻き混ぜた。
イヌ は「ぎゃん」と言うなり私の肩口に噛み付いて来た。
驚いてイヌを突き飛ばしたが、私の意識は朧となった。

気が付くと、ワタシは四つ這いなって家の外、路地裏にいた。日傘を差した女が向こうからやって来る。
影が濃くて顔が見えない。
「おや、こんな所にイヌが・・」
母の声に似ている気もした。
ワタシは「ワタシは犬ではない」と言うと、
「こんな処にいやらしい鎖を付けてさ。それで女のつもりかい」
ワタシの陰唇に穴が開けられ鎖が通されていた。
咄嗟に逃げようとしたが、女に鎖を掴まれると陰唇に引き裂かれそうな痛みが走った。
そのまま女に鎖を引っ張られ後ろ向きに四足のまま、足をもつれさせながらついて行く。
トコトコと後ろ歩きする様はまるで芸をするイヌのようだった。
さっきのイヌが家の門から、顔を出しこちらを盗み見している。ワタシはイヌに言った。
「グッバイ、イヌ。ワタシはワタシの道を連れられて行く。何処へ行くのか知らないけれど。
またいつか、何処かの庭で逢えたらいいね」
ワタシ達は哀しげな目で互いを見送ったが、それも陽炎でぼやけてしまった。

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