夢に棲まう姫君たち

古風な館の屋根裏部屋で、あるいは薄暗い森林の鬱蒼とした叢のなかで、特異な場のもつ強い魔力と淫夢を操る撮影−着色魔術がうら若い乙女たちの心奥に眠る魔性を呼び覚まし、彼女らをみだらな〈姫〉へと変貌させる。乙女たちは、個々の魅力を保ちながらも、写真家の夢想する〈姫〉の定型へとスムーズに移行する。
ロマンティックなファッションや華美な着物で身を固めた〈姫〉は高貴ですらある静かな表情で下腹部をさらし、淫猥な陰毛と生々しい女陰をあらわにして、官能の芳香を撒き散らす。ときに、撒き散らされるのは女の肉の芳しき匂いにとどまらず、暗い窪みから放出される威勢のよい小水が大きく弧を描くことすらあるだろう。堂々と放たれた小水は〈姫〉に恥辱を与えるというよりも、むしろ厳かなる美とエロスの力を増幅させるようにさえ思われる。

〈姫〉の女陰は剥き出しにされるが、そのみだらな肉の輝きは強力な呪物を、呪力を孕む肉のオブジェを髣髴とさせる。
 ときにその肉襞は草花を貪り食うがごとくくわえ込み、植物の過剰な生命力をとり込もうとする。その様は、女体のエロティックな部位が植物と交歓しているようにも見える。 一方、球根のごとき植物身体と化した臀部からは、蜘蛛の糸のごとき幾本もの長い性毛が放出されることもある。そのとき、〈姫〉の性毛は植物の旺盛な生長力をも獲得するのだろう。
〈姫〉の気品は損なわれることなく、その威光は月の少女神ディアナの域にまで近づいていく。

美とエロスの奔流が交じり合い、互いを極致にまで導いて、〈姫〉の魔性を高めていく。小水の形成する見事な弧形すらもが、彼女の威光に加担するようだ。
村田の創造する〈姫〉は、思春期という幸福な時代に閉じこもるバルテュスの少女と、陰部を露出して自ら神と名乗るマダム・エドワルダの間を目まぐるしく行き来し、やがて現実世界を離脱して、夢幻の領域に達する。彼女は無垢とみだらの同居する奇妙な地平を開示し、その二つのみを糧として、エロティックに、そして優雅に永遠の淫夢を貪り続けるだろう。


相馬 俊樹