月夜見の姫
この作品は2002年9月か10月頃より撮り始めている。月となる白い玉は一年以上前から作ってあったが、使いようが見当たらず放ってあった。 「月読の姫」と「月夜見の姫」どちらの漢字でも構わない。字面の美しさから「月夜見」と改めたが。 |
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昔、月より女追われ都の外れに落ち延びたと聞く。 夜毎、月を眺むるに月夜見の姫と皆申す。 格別月読みの祭事をするでもなく、ただ月をあぐるるほどにご覧あそばす。 その頬、月の光の如く蒼白く輝き、色に惑わされた公達夜這うものの、 姫の褥に入ること叶う者なし。 ある日、月夜見の姫、池にて水浴みし給えるに、 水面に浮かぶ月影、いと愛しくなり給い、 水瓶にすくいて、これを持ち帰り給う。 その日より姫、気狂いのように水瓶の月を愛で給いて、 月の形見と我が身を緒で結び給う。 しかして数日の後、水瓶の月、儚く潰消えゆきて、 姫、我が身も儚くなれば良いとのたまいて、 我が身を縛りて嘆き悲しまれる。 床に臥して数ヶ月、姫、月のものが来ないのを訝しく思し召し、 腹を摩るるに我が腹の膨らみ憶えられる。 「あな、不可思議な」と、 姫、我が胎内を覗かんと穴を鏡でご覧あそばすに、 なんと暗い我が洞穴に星の誕生するを見給う。 姫、もっと良くご覧あそばそうと身を屈められるに、 終には我が洞穴に落ち込まれ、その姿消し給う。 それより後、姫の姿見る者なし。 姫、月に帰り給ひけると噂に聞くのみであるが、 卑しきものの風評なり。 ただこの国では姫、月をすくいて持ち帰りし後、 月の水面に映らずと言う。 |