異聞・ラプンツェル
これの制作は2006年12月頃から翌年2月頃。
ラストの山中の撮影が2月と一番寒い季節となった。


これのストーリーは珍しく気に入っている。下敷きは勿論ラプンツェル。
画像は切り抜かれたサムネールと 一点大きな画像を掲載。

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異聞・ラプンツェル

私は高い塔の中、枯木の魔女と呼ばれている目の見えない老婆に閉じ込められて居ます。
この魔女は触れる木々全て枯らしてしまうと恐れられていました。
しかし別にさらわれた訳ではありません。

強欲で意地汚い母は魔女の庭から「野ぢしゃ」を盗み食べました。
しかし盗みは直ぐに見つかり、母は「野ぢしゃ」と引きかえに私を枯木の魔女に差し出したのです。
私は未だろくに家事も出来ない子供だったので、母はいつも私を罵っていました。
それを思うと魔女にもらわれることも大して悲しくありません。

塔で暮らすようになり数ヶ月が経った頃、体のあちこちの穴から木の芽が吹くようになりました。
「姉が私の獲物を妬んで悪戯をする」
魔女には大変仲の悪い姉が居ました。新緑の魔女と呼ばれ触るもの全て芽吹かすと恐れられています。村人が百年かれて開墾した土地をたった一日で村ごと森に戻してしまったこともあります。
枯木の魔女は新緑の魔女から私を守る為に夜毎、喉の奥や私の割れ目を調べ伸び出した木の芽を刈り込みました。

初潮の始まりと共に木の芽は特に割れ目から伸びるようになりました。
「こいつぁ危険な兆しだよ。伸び出すと止まらなくなり大木になってお前を股から引き裂くよ」
魔女は目が見えないので手で弄りながら、それはそれは念入りに子宮の奥から刈り込みました。
私もそれは恐ろしく魔女の言うなりに足を開きます。こうして何年もの歳月が流れていきました。

ある日、塔の下に一人の男が立ちました。私は塔に連れられてから魔女以外の人間を初めて見ました。
男は凛々しい姿をしていました。窓辺に立つ私を真っ直ぐに見つめています。その瞳は何かを訴えかけているように思えました。
私は体が振るえ胸が張り裂けそうな程に切なくなりました。
男は幾日も幾日も塔の下で佇んでいました。
「なんだか塔の下で男の気配があるね。何処ぞの愚か者がお前を慕っているようだね。まあ、この塔には出入り口はないのだからそのうち諦めるさ」

ある明け方、私は泣きながら目を覚ましました。
男が諦めてその場から去る夢を見たのです。でも、これは夢でなくなるでしょう。魔女の言う通り私はここから出ることは叶いません。
隣では魔女がぐっすりと眠り込んでいます。
私の胸は張り裂けていました。私は初めて自分が不幸だと思いました。
母に捨てられて塔に閉じ込められても自分の運命に諦めがつきました。
新緑の魔女に呪われて不憫な体になっても恨みもしませんでした。
しかし今、あの男に一生触れることが出来ないのは、死ぬことよりも恐ろしい絶望です。

私は初めて新緑の魔女に向かって心で叫びます。
「新緑ですべてを破壊する魔女よ、私の木の芽を大木にするが良い。そして私の体を裂いておくれ」
私の想いと新緑の魔女の呪いが一直線で交わったのか、私の子宮は疼き出し割れ目からはどんどんと蔦が伸びていきました。
体が裂かれる一瞬を目を瞑り覚悟を決めて待ちました。しかし割れ目は裂けることなくうずうずとするだけです。やがて勢いよく蠢いてた割れ目が静かになりました。
目をそっと開けると私の周りには長い長い蔓がとぐろを巻いているだけで、お腹は裂けては居ません。
何処かで声が聞こえます。その声は新緑の魔女のものか、あの男のものかは分かりませんが、私のするべきことは分かりました。
飛び起きると蔓の先端を枯木の魔女の眠っているベッドの足元にくくり付け、私は蔦を握り締め窓辺から塔の下へと降りていきました。
下に降り立つと男は驚いたように私を見つめましたが、直ぐに股から伸びる蔓を剣で断ち切ると私の手を引いて森へと向かいました。

朝になると魔女が気付いたのか、私達の進む森はどんどんと木が干乾びていきます。
森の木々は全て干乾びて荒地となり、私の目は砂嵐で魔女と同じように見えなくなりました。男は私の手を引き何日も何日も前を進みました。
ところがある時、男の足が止まりました。そしてその手は見る見る乾燥した木の様に硬く干乾びていきます。
代わりに辺りの荒地から瑞々しい木の匂いが立ち込め出しました。男の水分を吸い尽くすと荒地は元の森へと戻り男は哀れにも髑髏となり消えていきました。






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